空き家対策特別処置法「行政代執行」とは?

ニュース等で行政代執行という言葉を耳にしたことがある人も多いでしょう。

 

行政代執行とは、行政から立ち退きや明け渡しなどの義務を課せられている対象物件に対して、公権力をもってその義務を強制的に履行させることを言います。

 

行政代執行を他人事と思っている人がほとんどかもしれませんが、平成27年5月に施行された空き家対策特別処置法において特定条件に該当する場合には行政代執行の強制対処対象になる事があり、当事者となる事は十分に考えられます。不動産業界において深刻化している空き家問題の対策として施行された空き家対策特別処置法と行政代執行について説明していきます。

 

公益性を持っているかどうか

具体的な行政代執行の事例として、近年話題となったものとしては大阪府の駅地下にあった老舗串カツ店や、福岡県のみかん農家が東九州自動車の建設にあたって行政代執行の対象になった事例があります。

 

1件目の大阪の串カツ店の場合は、地下道の道路占有許可が打ち切られたため立ち退きを請求されていましたが、従わなかったために行政代執行となっています。

 

2件目の福岡県のみかん農家は、農園が高速道路予定地を寸断しているため、土地の明け渡しを請求されていたのに従わなかったために行政代執行によって強制収用となっています。

 

2件とも新聞やテレビのニュースでも取り上げられていたため、ご存知の方も多いでしょう。その後、最終的に大阪の串カツ店は自主退去しましたが、福岡県のみかん農家は最後まで抵抗し、行政代執行によって土地を強制収用されています。

 

どちらも立ち退きや土地の明け渡しを拒否したことで行政代執行となっていますが、この2件には大きな違いがあります。大阪の串カツ店の場合は、そもそも行政の許可を得て営業するものであるため行政の許可が打ち切られれば立ち退きを求められても仕方がないと言えますが、福岡県のみかん農家の場合は、以前から所有している土地に高速道路の建設が後から決まったわけですから、土地の所有者であるみかん農家としては納得できないというのも理解できない話ではありません。

 

一見共通点のないようにも見える大阪の串カツ店と福岡県のみかん農家の2件に共通しているのは、どちらも公益性をもっているという事です。行政代執行の代執行において、公益性が名分となって行われていることは間違いありません。

 

空き家対策特別処置法によると、大阪の串カツ店や福岡県のみかん農家と同じような事が全国の空き家においても起こる可能性があることを示唆しています。この空き家対策特別処置法は、空き家を所有しているオーナーにとっては非常に重要な対策と言えます。

 

改善の為に必要な処置

行政が公的機関だからといっても空き家を自由にすることが可能なはずはありません。空き家は所有者である民間人の財産であり、行政代執行による強制執行を無条件に許可してしまうと、所有者の財産権を侵害してしまう事になります。行政代執行は、義務を履行しない義務者に代わって行政が執行するものですから、空き家の所有者が負う義務があることと、代執行を行う法的根拠があることが条件となります。

 

空き家対策特別処置法においては、放置している事で安全上・衛生上・景観上などに問題がある空き家を、改善が必要な「特定空家等」とみなす、とされています。そしてこの特定空家等の所有者には、問題の改善のために必要な措置を命じる事が可能となります。

 

実際には、改善命令が発せられる前に助言や指導、勧告といった改善命令の前段階が用意されていて、そのうちのどれにも従わない場合に限って命令が発せられるという仕組みとなっています。つまり、この改善命令が空き家の所有者が負う義務にあたり、所有者がその義務を果たさない場合には行政代執行となる、という事です。

 

行政代執行は行政代執行法によって定められており、空き家対策特別処置法ではその定めに従って代執行ができるという事を想定しています。

 

代執行には3つの要件が必要となります。

 

  1. 義務者が義務を履行しないという事
  2. 他の手段で義務の履行を確保することが困難である事
  3. 不履行を放置することが著しく公益に反するという事

です。

 

問題となるのは「著しく公益に反する」という要件で、空き家対策特別処置法の施行前はこの部分が障害となって代執行ができないというケースもたくさんありましたが、特定空家等は公益に反するという事を根拠に代執行が可能となっています。空き家への行政代執行の要件は2つあり、空き家が特定空家等とみなされ公益に反する場合と、もう一つは行政からの改善命令に従わない義務の不履行がある場合です。

 

行政代執行による費用の回収

空き家対策特別処置法に基づいて行政代執行を行うにあたって、義務者がすべき行為を行政が自ら代執行する事ももちろん可能ですが、第三者にさせることも可能となっています。

 

例えば、空き家の修繕や解体等の専門知識や専門技術、専門の道具や重機等が必要な事を、そういった分野においては素人である行政が自ら行うというのは難しいため、行政から委託をされた業者が修繕や解体等を行うのです。

 

そして当然、委託された業者はボランティアではありませんから、人件費をはじめ作業に伴って必要となる経費など、委託した業者に支払わなければならない費用が発生します。その費用は行政が支払いますが、空き家の不動産所有者から徴収することができるため、結果的には不動産所有者が費用を負担するという事になります。

 

不動産所有者にしてみれば、自分の意図に反することを勝手にされて費用の請求までされるので、納得できませんし、誰も費用を払わないだろうと思われるかもしれませんが、行政代執行においてはそうはいかず、費用がしっかり回収される仕組みがあるのです。

 

行政代執行法第6条第1項には、代執行に要した費用は国税滞納処分の例により、これを徴収することができると定められています。つまり、かかる費用は国税を滞納した時と同じ方法で徴収することが許されているのです。

 

税金の滞納があった場合、基本的には何度か督促状が届き、それでも納税されない場合は差し押さえの予告が届きます。それでも応じない場合、職権により財産調査が行われます。そして財産が発覚すると、最終的には財産を差し押さえられて、強制的に徴収されるのです。

 

行政代執行されてしまうと抵抗もできませんし、費用も徴収されるため、空き家の場合は自分が不動産所有者であることを名乗り出ないというケースも可能性として十分に考えられます。特に古い空き家や長期間空き家のまま放置されているような場合では、不動産所有者不明という事も十分に想定されるパターンと言えます。

 

所有者が不明の場合

所有者が不明という空き家も少なくありませんが、空き家対策特別措置法では所有者が不明である空き家に対しても代執行を行う事ができる規定が設けられています。ただし、条件として「過失がなくて覚知ができないこと」とされているため、所有者が不明の場合に確認せずに行政代執行となる事はなく、まず所有者の調査が行われます

 

不動産は登記されているため、行政は固定資産課税台帳で確認したり、法務局の登記情報を確認したりすることによって簡単に所有者を特定できるようにも思えますが、実際はすべての空き家に対して簡単に所有者を特定できるとは限りません。空き家という事は、そこには住んでいないという事なので、住民票の移動がなければ所有者が現在どこに住んでいるのかを確認することができません。

 

もし行政が所有者を特定できない場合には、代執行にかかる費用は行政負担となる可能性が高くなってしまいます。しかし、所有者が分からなくても特定空家等を放置するのは公益に反するため、代執行しないというわけにはいかず、そういったケースが増えることによって行政の負担が問題となる事も考えられます。

 

また、登記等から所有者が特定できても、亡くなってしまっているというケースもあります。所有者がなくなっても名義変更されないまま放置されている空き家はたくさんあると考えられ、こういった場合は相続人をたどることになります。しかし、所有者の戸籍から相続人を調べて相続人が判明しても、相続人が複数いる場合にはその中の誰が相続したのかを戸籍から調べることはできず、相続人に確認しなければ分かりません。

 

その相続人の所在が分からないという場合には事実上なすすべもなくなり、行政負担となってしまいます。全国的に空き家対策が問題となっている今、所有者不在でも空き家対策特別措置法を根拠として代執行が行われるというケースは、どんどん増えていくと考えられています。

 

空き家を持っているオーナーが気をつける事

これまでに説明したように、行政代執行を行う前にその前段階として助言、指導、勧告などがあります。特定空家等とみなされて助言や指導をされた段階で、そのまま放置すればいつかは行政代執行の対象となる事を意味しますので、何らかの対処や対策が必要となります。

 

最も理想的なのは空き家をうまく活用するという事になりますが、そういった土地活用が難しいからこそ空き家になってしまい放置されていると言えるので、助言や指導をされたからといってこれまで放置されていた空き家をうまく活用するというのはそう簡単ではないという事も十分に考えられます。空き家の土地活用が難しい場合は、解体するか、売却するしか方法は無いでしょう。

 

解体する場合の解体費用はある程度の相場はあっても、空き家がある地域やその立地、家の大きさや構造、浄化槽の有無などによって大きく変わってきます。また、建物の解体においては、建物を壊すための費用や浄化槽や庭木などを掘り起こす費用がかかる上に、建物の解体によって出た沢山の廃材やゴミなどを廃棄するためにも費用が掛かります。また、空き家の周辺道路によっても料金が変わってきます。

 

道が広ければ重機などを使用して効率良く解体作業をすることができますが、道が狭く重機が使用できない場合はその分手作業で解体や運搬を行わなければならず、人手と時間が必要となり、人件費がかかります。売却するとしても、行政代執行の対象となりそうな空き家を買いたい人はいないでしょうから、解体して更地にしてから土地として売却するという形になるでしょう。

 

このように解体に必要な費用が高額になってしまうといった理由や、その他の何らかの理由ですぐに対処できない事情があるといった場合には、行政へ相談することも大切な事です。所有者に空き家を何とかしなくてはならないと言った自覚や責任感があり、空き家対策に前向きに対処しようと取り組んでいるという姿勢が見られれば、おそらく行政も強硬な手段を直ちに講じるというようなことは無いでしょう。

 

まとめ

空き家の所有者がいくら頑張って抵抗してみても、行政が特定空家等に指定し、度重なる助言・指導や勧告をしても改善が見られない場合、行政が代執行を行うと決めたら確実に実行されることになります。

 

それを避ける可能性があるとするならば、空き家対策特別処置法に基づく改善命令が出たらその時点で取消訴訟を起こすことも視野に入れなければなりません

 

しかし、行政代執行の名分は公益性ですから、代執行で回復しがたいほどの著しい損害を所有者が受けることも考えにくいため、取り消し訴訟は認められないケースがほとんどであると考えられます。そもそも、弁護士に依頼して訴訟で戦うほどの金銭的余裕があるならば、空き家の対策や改善ができないはずがありません。

 

自分が所有している空き家が空き家対策特別処置法における特定空家等に指定されてしまったら、あきらめて速やかに改善するしかないという事で、結局は特定空家等に指定されないように、空き家を放置せずに対策を考えていくと言うのが最善の方法であると言えます。

 

昔に比べて子供が進学や就職などで都市部へ出ていき、そこで家やマンションを持つという事が多くなり、親が高齢になっても同居する世帯は少なくなっています。そして介護施設や介護付きマンションが増え、そういった介護施設に入居する人が増える事で、空き家となる家や土地も増加傾向にあります。また、古い家よりも新しい家の方が人気があり、空き家の不動産活用は難しく、修繕するにも解体するにもお金がかかるため、放置される空き家も年々増加しています。

 

そういった空き家は倒壊のリスクや衛生上・景観上にも問題があり、行政としても放置はできず空き家対策特別処置法が施行され、助言・指導、勧告した上で、改善が見られないと行政代執行の対象となります。自分が所有している空き家がその対象となる事が無いように、空き家を有効に不動産活用するか、諦めて改善命令を発せられる前に解体する必要があります。

 

空き家とは言え、せっかく所有している家や土地ですから、有効に不動産活用するのが理想です。